お笑い界だけ"シンガーソングライター"が多すぎる問題

M-1グランプリ 2022 の優勝者はウエストランドでした。 毒舌のボケ井口さんと、 2019のインタビューで「日本代表ですから」と言ったら 自動字幕で「ブーブーニョッキパキータ」になった ツッコミの河本さんのコンビです。

ブーブーニョッキパキータ

 

やっぱりM-1はいいです。 1年振りに Because We Can の出囃子を聞いたとき、 私自身お笑いの世界とは全く関係がないのに、 鳥肌が止まりませんでした。

そんな漫才の歴史の中でも伝説として語り継がれているのが、 吉本興業の漫才コンビ「やすしきよし」です。 やすしきよしの漫才の映像を見たとき、 びっくりしたことがありました。

やすしきよしの漫才

  作家の名前が書いてあるのです。 やすしきよしのネタは横山やすしさんが原案を書いていたと 聞いたことがありましたが、中には作家が作ったものもあったのです。 そして、それがちゃんと番組中でクレジットされているのです。 この中田明成という方について調べてみたところ、 5000本もの漫才台本を提供した、漫才作家であることが分かりました。 氏がネタを提供した漫才師の名前を見ると、私がリアルタイムでは見たことのない 往年の名人の名前が並んでいました。

今、お笑いコンビのネタを見ると当然のように 「どっちがネタを書いているんだろう」という視点で 見てしまいます。

特に、ハライチの岩井さんが 『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』で 「ネタを書いていない奴がお笑いを語るな」と 発言したことにより、 世間がよりそういった視点で コンビを見るようになった気がします。

ネタ受取師

  どうしてお笑いの世界だけ ネタをやる人が自分で書く「シンガーソングライター」のようなスタイルが 当たり前になっているのでしょう。

もちろん、近代の芸人であっても、全員がネタを書いている訳ではありません。 『とんねるずのコント in 苗場』のネタは放送作家の吉野晃章氏が書いていたそうです。 バナナマンも「第三のバナナマン」と呼ばれるオークラさんがコントの台本を手がけています。 しかしながら、それは少数派です。

音楽の世界は別に総シンガーソングライター化していません。 YOASOBIはayaseさんが作詞・作曲担当し、ikuraさんは基本的にボーカル担当です。 Adoさんなんかも、自分で曲は書いていません。 LiSAさんも作詞は行いますが、曲は作曲家の方がそれぞれ書いています。 また、TikTokでよく見るソニーミュージックの MAISONdes は 作曲家とシンガーのコンビでコラボレーションをする というプロジェクトです。

R-1常連のルシファー吉岡さん(マセキ芸能所属)が なぜか松竹芸能のチャンネルでネタ作りについて講義を行っていましたが、 そこで、「面白いと思ってもそれが自分に出来るかどうかは別」という 話をしていました。

ルシファー吉岡氏の講義

 

これを自分でやることを前提としなくなると、 可能性が一気に広がるような気がします。 「面白いことを表現できる能力」と 「面白いことを0から考えられる能力」は別です。 前者は腰を据えてアイディアを取捨選択する必要があり、 一方、バラエティやライブの平場で面白い返しをする ときに必要になるのは瞬発力です。 これにさらに、ネタにおける演技力なども考えると、 全部持っている必要のある劇場ネタ芸人は ハードルがけっこう高いです。 もちろん、表現する人も面白いことを考えられないと 演じることすらもできないと思います。

大きな理由として「ネタをやるだけの人」が出てくる土壌が そもそもないというものがあります。 例えば、歌手であれば誰かのカバーをして それによって評価されるという流れがあります。 最近だと、最近だと、AdoさんやReolさんがそのパターンで 有名になって、世に出て来ています。 また、古典落語は昔からある演目を自分流に表現する芸です。 なので、「『地獄八景亡者戯』は米朝がいいね」や、 「志ん朝の『芝浜』は別格だな」といった話題が出て来ます。 これが漫才やコントになると 「【男女コンビが】ダウンタウン - 誘拐【やってみた】」 とか 「奈良県立歴史民俗博物館/笑い飯 (Cover)」 みたいな動画自体があまり数としてないですし、 そういった動画が有名になっているのを、 私の観測範囲では見たことがありません。

また、逆に、面白いネタが書ける人が その一本槍で有名になれるような場所も あまりないような気がします。 VOCALOIDを使って個人で作曲をしていた人が その音源を聴いた人にスカウトされて・・・ といった流れは割とよく見るようになりましたが、 VOICEROIDで面白い動画を作って 万バズしたとしても、 その先になにかレールが用意されている ようにも思えません。 もちろん、ボーカロイドもryoさんなど先駆者による 活躍でメジャーへの道が拓けていったので、 誰か先駆者が現れると状況が変わることは あると思います。 かつての有名ハガキ職人「シオンJr」や「うのT」 は現在、放送作家として活動しているそうです。

また別の側面として、「かもめんたる」や「かが屋」のレベルでも 「コントだけで食べていけない」と言っていました。 ネタ作り専属の作家になるには、 中田明成氏のようによほど筆が速いか手数が多い人でないと 厳しいのかも知れません

いつかM-1で「どっちもネタ書いてません」というコンビが出て来たら ちょっと夢がありますね。

(終)